事件の受任・委任契約の業務手順書テンプレート(士業事務所)
相談のあと受任を決めたら、報酬と見通しを説明し、委任契約書を交わし、着手金を受け取り、事件記録を作るまでの流れです。手順書にすると、委任契約書の作成漏れや、預り金の管理の誤りを防げます。
この手順書の範囲
- 目的
- 受任の手続きと事件記録の作成を、どの弁護士・事務職員でも同じ順番で行えるようにします。
- 範囲
- 受任を決めてから、委任契約の締結、着手金の入金、事件記録の作成、最初の期日の登録までです。
- 始まるきっかけ
- 法律相談の結果、依頼者が依頼を決めたとき
- 頻度・量の目安
- 随時・事務所全体で月5〜30件
- 使う書類・システム
- 相談記録・利益相反チェック記録、事務所の報酬基準、委任契約書の書式、委任状の書式
担当と役割
弁護士
見通しと報酬の説明、委任契約の締結
事務職員
委任契約書・委任状の作成、請求書の発行、事件記録の作成
経理担当
着手金・預り金の入金確認と管理
手順(12ステップ)
1. 利益相反チェックの記録を確かめる
相談時の記録に加え、受任時点で新たな関係者が出ていないか再検索します。
- 確かめること
- 相談後にわかった相手方の代理人・関係会社も検索する。
- できあがるもの
- 再チェックの記録
- 説明弁護士・目安 20分
2. 事件の見通しと方針を説明する
取りうる手段(交渉・調停・訴訟など)、見込まれる期間、不利な点も説明します。
- 確かめること
- 結果を保証するような説明をしない。
- できあがるもの
- 説明記録
- 説明弁護士・目安 15分
3. 報酬と実費の見積を示す
着手金、報酬金の算定方法、日当、実費(印紙・郵券・交通費)を書面で示します。
- 確かめること
- 経済的利益の算定方法など、報酬金の計算の根拠を書く。
- できあがるもの
- 見積書
- 契約作成事務職員・目安 20分
4. 委任契約書を作る
事件の表示、受任の範囲(審級ごとか、交渉のみかなど)、報酬、実費、中途解約時の扱いを入れます。
- 確かめること
- 受任の範囲を審級や手続きごとに具体的に書く。
- できあがるもの
- 委任契約書の案
- 契約作成事務職員・目安 10分
5. 委任状を作る
訴訟・調停などに使う委任状を、手続きと相手方に合わせて作ります。
- 確かめること
- 依頼者の氏名・住所が本人確認書類と一致している。
- できあがるもの
- 委任状
- 締結弁護士・目安 15分
6. 委任契約書を依頼者と交わす
内容を読み上げて説明し、双方が署名・押印します。
- 確かめること
- 依頼者に控えを渡す。
- できあがるもの
- 締結済みの委任契約書
7. 着手金の請求書を出す
着手金と実費の預り金を請求し、振込先と期限を伝えます。
- 確かめること
- 源泉徴収が必要な依頼者(法人など)には、源泉徴収税額を示す。
- できあがるもの
- 請求書
8. 入金を確かめ、預り金を分けて管理する
着手金は事務所の売上、実費の預り金は預り金口座で管理します。
- 確かめること
- 預り金を事務所の運転資金と混ぜない。
- できあがるもの
- 入金・預り金の記録
9. 事件記録を作り、事件番号を振る
事件名、依頼者、相手方、担当弁護士、受任日、受任の範囲、報酬条件を案件管理台帳に入れます。
- 確かめること
- 相手方・関係者を利益相反チェックの検索対象に加える。
- できあがるもの
- 事件記録
10. 依頼者から預かった資料を記録する
原本か写しか、預かった日、返却予定を受領・返却簿に入れます。
- 確かめること
- 原本は写しを取り、原本は施錠できる場所に保管する。
- できあがるもの
- 受領・返却簿
11. 最初の期限を期日管理表に入れる
内容証明の発送予定、時効の完成日、答弁書の提出期限などを入れます。
- 確かめること
- 時効の完成日は依頼者の資料から計算し、弁護士が確かめる。
- できあがるもの
- 期日管理表
- 連絡弁護士・目安 10分
12. 依頼者に今後の進め方と連絡方法を伝える
次の作業と予定、連絡の手段と頻度、緊急時の連絡先を伝えます。
- 確かめること
- 依頼者に報告する頻度(例: 月1回以上)を決めて記録する。
- できあがるもの
- 連絡方針の記録
締めのチェックリスト
- 受任時に利益相反を再確認した
- 見通しと不利な点を説明した
- 報酬・実費の見積を書面で示した
- 委任契約書に受任の範囲を具体的に書いた
- 委任契約書の控えを依頼者に渡した
- 源泉徴収の要否を確かめた
- 預り金を預り金口座で管理した
- 事件記録に相手方・関係者を入れた
- 預かった原本を受領・返却簿に記録した
- 時効・最初の期限を期日管理表に入れた
よくあるミスと防ぎ方
受任の範囲が曖昧
「訴訟一式」とだけ書くと、控訴審や執行手続きまで含むのかでもめます。審級ごと・手続きごとに範囲を書きます。
預り金と事務所の資金を混ぜる
実費の預り金を事務所の口座で管理すると、返金や精算の際に説明ができません。預り金口座を分け、出入りを記録します。
預かった原本の行方がわからない
登記済証や契約書の原本を事件ファイルに挟んだまま紛失する事故があります。受領・返却簿で原本の場所を管理します。
測っておきたい指標
- 受任決定から委任契約締結までの日数
- 委任契約書の作成率(100%が基準)
- 預り金の精算遅れ件数
関係する法令・規格
弁護士職務基本規程(日本弁護士連合会)
受任の際の見通しと報酬の説明、委任契約書の作成、依頼者への報告に関わります。
弁護士の報酬に関する規程(日本弁護士連合会)
報酬基準の作成と、報酬の説明・見積に関わります。
預り金等の取扱いに関する規程(日本弁護士連合会)
預り金の専用口座での管理と記録に関わります。
所得税法
法人などが弁護士報酬を支払う際の源泉徴収に関わります。
無料ダウンロード
業務手順書テンプレート集(士業・10業務)
- 「事件の受任・委任契約」を含む10業務の手順書を、1業務1シートで書き換えられるExcel
- 手順ごとに担当・確かめること・できあがるもの・目安時間の列。自社のやり方に合わせて行を足せます
- 締めのチェックリストと改訂履歴のシートつき。A4横で印刷できます
フォームを送信すると、すぐにダウンロードできます
12手順のうち6つは、自動化の候補です
よくある質問
- 委任契約書は必ず作りますか。
- 原則として作ります。法律相談、簡易な書面の作成、顧問契約に基づく場合など、例外になる場面もありますが、受任の範囲と報酬を書面で残すと後のもめごとを防げます。
- 源泉徴収はどんな場合に必要ですか。
- 法人や個人事業主が弁護士報酬を支払う場合、支払う側が源泉徴収を行います。請求書に源泉徴収税額と差引の額を書くと支払いがスムーズです。
- 預り金はどう管理しますか。
- 預り金専用の口座で管理し、依頼者ごとに受入れ・支出・残高を記録します。事件終了時に精算して返します。