社内の文書を根拠に答えさせたいならRAG、読み方・判断の基準・答えの形をモデルに覚えさせたいならファインチューニングが向きます。多くの業務はプロンプトの工夫とRAGで足りるため、まず自社のデータでそこまでの精度を測り、届かないときに学習を考えます。振り分け・採点・可否の判断のように答えの形が決まっている業務では、確率つきの判断を返す「判断特化モデル」を社内で作る方法もあります。
3つの違い
| プロンプトの工夫 | RAG(社内データの検索) | ファインチューニング |
| 変えるもの | AIへの指示 | AIが参照する資料 | AIモデルそのもの |
| 向いていること | 出力の形や言い回しの調整 | 社内の文書を根拠に答える。情報を新しく保つ | 読み方・判断の基準・答えの形を覚えさせる。小さなモデルを強くする |
| 要るデータ | ほぼ不要 | 社内の文書 | 正解つきのデータ(数百件〜) |
| 情報が変わったとき | 指示を書き換える | 資料を差し替えれば済む | 学習し直す |
| 社内の環境で動かす | モデル次第 | モデル次第 | 公開されているモデルを学習させるため、しやすい |
RAGは「何を知っているか」を変え、ファインチューニングは「どう読み、どう判断するか」を変える、と考えると分けやすくなります。
試す順番
- プロンプトの工夫。指示と例を整え、正解データで精度を測ります。
- RAG。根拠にする資料を渡し、もう一度測ります。
- ファインチューニング。1と2で届かないときに考えます。
同じ正解データで測ることが前提です。作り方は生成AIのPoCで最初に作る「正解データ」で解説しています。
学習が要るサイン
- 読み方の癖が直らない。読めない文字を「それらしく」補ってしまう、などの癖は、指示では直りにくいことがあります。
- 答えの形が守れない。決まった項目・選択肢で返すよう指示しても、ときどき崩れます。
- 判断の基準が文書になっていない。過去の判断の記録はあるが、基準を言葉にできません。
- 小さなモデルを社内で動かしたい。社外に出せないデータを、限られた機器で処理する必要があります。
学習させた例
ジンベイは、手書き帳票を「書かれたとおりに読む」ようモデルを学習させ、社内のサーバーだけで動かしました。手書き帳票130枚・7,660項目を項目ごとの完全一致で採点したところ、クラウドの最先端モデル4つをすべて上回りました(総合スコア75.55)。読み方の癖は、学習で直せる例です(お知らせを見る)。
組み合わせ方
両方を使うことも多くあります。読み方や答えの形はファインチューニングで覚えさせ、日々変わる規程や品番の情報はRAGで渡します。学習し直す回数を減らしながら、情報を新しく保てます。
判断特化モデルとは
判断特化モデルは、文章を書く代わりに、選択肢から選ぶ・採点する・正しいかどうかを0〜1で示す、といった答えを確率つきで返すAIです。振り分け・採点・可否の判断のように、答えの形が決まっている業務に向きます。
代表的な例が、TypeSafe AIが2026年9月に発表した「Jev」です。公式のドキュメントでは、APIとして提供され、Jevは顧客のデータでファインチューニングやLoRAによる追加学習を行わない、と説明されています。自社のデータで学習させたい、社内の環境で動かしたい、という場合は、同じ使い方を社内で実現する方法を考えます。
Jevと同じ使い方を社内で実現する3つの方法
| 方法 | 学習 | 要るデータ | 向いている場面 |
| 1. 公開されている判断特化モデルを学習させる | する | 正解つきのデータ | 使いたいモデルのライセンスが商用で使え、業務に近い |
| 2. 公開されているLLMから自前で作る | する | 正解つきのデータ(数百〜数千件) | 判断の基準が会社独自で、社内の環境で動かしたい |
| 3. 学習せず、答えの形だけを縛る | しない | 評価用の正解データ | まず小さく試したい。元のモデルで精度が足りている |
1. 公開されている判断特化モデルを学習させる
判断特化モデルの中には、重みが公開されているものがあります。自社の正解データで追加学習させ、社内のサーバーに置いて動かします。採用の前に、商用で使えるライセンスかを確かめます。
2. 公開されているLLMから自前で作る
- 選択肢ごとの確率を1回の計算で出す。答えを文章で書かせず、モデルが次に出す語の確率から、選択肢ごとの確率を読み取ります。速く、答えの形も崩れません。
- 正解データ数百〜数千件で、LoRAで学習させる。LoRAはモデルの一部だけを学習させる方法で、少ない計算量で済みます。
- 学習に使わないデータで、確率を合わせる(キャリブレーション)。「確率0.8」と出た判断が、実際におよそ8割当たるように補正します。確率が信用できれば、「0.9以上は自動で通し、それ以外は人が見る」といった線引きができます。
- Jevと同じ形で呼べるAPIにする。問い合わせと応答の形をそろえておくと、呼び出す側の仕組みを共通にできます。
3. 学習せず、答えの形だけを縛る
モデルの出力を、決めた選択肢や項目だけに制限します。学習は要りませんが、精度は元のモデルの力で決まります。まずこの方法で正解データを測り、届かなければ1か2に進む、という順番が確実です。
気をつけること
- 他社のAIサービスの出力を学習に使わない。Jevを含め、他社のAIサービスの出力を自社モデルの学習データにすることは、利用規約で制限されていることがあります。学習には、自社の正解データを使います。
- 速さと精度は、自社のデータで測る。公表されている数値は、データと採点の条件が違います。自社の正解データで、元のモデルと学習後のモデルを同じ物差しで比べます。
- 確率のずれを定期的に確かめる。業務の中身が変わると、確率と実際の当たり方がずれてきます。学習に使わないデータで測り直します。
ジンベイのファインチューニング
ジンベイのLLM・VLMのファインチューニングでは、学習させるべきかどうかを自社のデータで測るところから始め、正解データづくり・学習・比較評価・社内の環境への配備まで担います。社内の環境の構成は、ローカルLLM・閉域AIの構築と組み合わせて設計します。