勤怠管理システムなどHR領域に特化したSaaS比較サイトの運営、企業へのSaaS導入・運用支援サービスを提供しているIT Forward株式会社様。比較サイトでは、代表の林拓郎氏が前職で蓄積したHR領域の知見を活かし、細かな機能も含めて比較できることが特徴です。今回ジンベイに依頼したシステムの狙いなどを林氏に伺いました。■勤怠管理システムの導入企業からの問い合わせ業務を省力化したい[cap]IT Forward株式会社/林 拓郎氏(代表取締役社長)― 今回ジンベイに開発を依頼した背景を教えてください。弊社では勤怠管理システムの導入後の運用支援を提供しており、お客様企業の担当者様からの問い合わせや質問に対応しています。システム開発元のベンダー様が提供するヘルプサイトやFAQだけでは、お客様企業ごとの具体的な運用状況や設定を踏まえた回答がすぐに得られないため、お問い合わせが弊社に寄せられています。簡単なご質問にはその場でお答えできますが、複雑な内容の場合、個社ごとの設定を詳細に確認し、入力されたデータの内容も踏まえて調査・回答するまでに1〜2時間かかることもあり、この作業の省力化が課題となっていました。これまでの問い合わせチャットボットは、あらかじめ想定されたシナリオに基づいて質問と回答が準備されるため、想定外の質問には適切に答えられません。また、網羅的なシナリオを作成するには膨大な工数が必要となります。そして、お客様企業ごととなるとシナリオを作成するは非現実的な状況でした。ですが、ChatGPTやGeminiといった生成AIの進化により、AIがより適切な回答を生成できるようになったと判断し、ジンベイに協力を依頼することになりました。[cap]ジンベイが制作したシステム。どの言語モデルを使用すべきかを比較した上で、勤怠管理システムに登録されている個社毎の設定データや入力データなどをRAG化。一般的なRAGシステムと比較して50%以上精度の高い回答を返せるAIチャットボットを構築した。― できあがったものの評価はいかがですか。まだ運用を始めたばかりなので、お問い合わせの減少などの効果は検証中ですが、想定したよりも高い精度で回答を実現できています。最近の問い合わせAIチャットボットは、ヘルプサイトやFAQの内容を基に回答を生成するRAG(Retrieval Augmented Generation)が多くを占めています。しかし、今回開発したAIチャットボットは、顧客企業ごとの設定情報や勤怠打刻データといった個別の情報もRAGの対象として回答を生成できる点が大きな特徴です。例えば、「月次の集計が合わない」という問い合わせがあった場合、ヘルプサイトには一般的なチェック項目が記載されていても、顧客の具体的な環境における設定や入力値がどのように影響しているかまでは網羅されていませんでした。そのため、これまでは弊社担当者が顧客の設定内容や入力値を確認し、ヘルプサイトの情報と照らし合わせながら、「ここが正しくないために集計値が合わないのかもしれない」といった仮説を立て、手動で回答を作成していました。このプロセスは直感的ではなく、多くの手間と時間を要していました。今回開発したAIチャットボットでは、システムの設定情報や実際の打刻データを参照することで、集計値が合わない原因となっている具体的な設定箇所を特定し、改善策を提示できるようになりました。これにより、より迅速かつ正確な顧客サポートが可能になりました。従来のAIチャットボットでもヘルプデータをRAG化する取り組みはありますが、顧客ごとの具体的なデータに加えてヘルプサイトの情報まで含めて参照し、統合的に回答を生成できるものは現時点では他にほとんど例がないと思います。― ジンベイの進め方はいかがでしたか。プロジェクトの進め方には非常に満足しています。まず、明確なゴール設定を行い、それに基づいて計画を立てました。その後のプロセスでは、精度向上のために密な連携が取れたと感じています。全体スケジュールは、計画と初期の環境構築に1ヶ月、精度向上の検証に1ヶ月半、環境の引き渡し期間に半月と3ヵ月で実施いたしました。精度向上の具体的な進め方としては、弊社で想定される質問とそれに対する回答を作成し、定期的な進捗会議で回答精度のチェックを行いました。ジンベイからは精度向上のための具体的な施策が提案され、それらをPDCAサイクルとして回しながら改善を進めました。プロジェクトでは、GPT-4o,o1,o3、Claude 3.5 Sonnetなど、複数の言語モデルの検証を実施していただきました。これにより、各言語モデルの精度差や、API利用にかかるコストシミュレーションまで詳細に把握することができました。高性能な言語モデルは費用も高くなるため、この費用対効果の検証は非常に助かりました。生成AIを活用する上での評価ポイントは、主に精度(品質)、セキュリティ、コストだと考えていますが、今回のプロジェクトでは特に精度(品質)とコスト面で大変満足しています。■AIを活用した今後の展開について― 今後、このシステムをはじめ、AIをどのようにビジネスに取り入れて行くビジョンを立てていますか?ここまでは、弊社の勤怠管理システムの運用支援業務におけるお問い合わせ対応の効率化という話でしたが、今後はベンダーさんに対してもこのAIチャットの提案をしていきたいと思っています。さらにチャレンジしたいのは、AIを使ってシステムの設定自体をできるようにするということです。今、試行錯誤を始めたところです。― ありがとうございました。 (インタビュー:2025年6月4日)[ジンベイ プロジェクト担当者から]<開発にあたって工夫したこと>開発ツールDify使用によって、システムの仕組みが図解で理解しやすくなり、お客様側でも今後の調整や改善がしやすい設計にしました。「一般的なヘルプ情報」と「お客様固有の実際の設定データ」の両方を組み合わせることで、より具体的で実用的な回答を実現しました。複数のAIモデルを比較検証した結果、GPT-4oが最もコストパフォーマンスに優れていることを確認し、従来のヘルプページベースの回答より50%以上高い精度を達成しました。<将来のアップデートについて>今後はDifyの管理画面からより新しく高性能なAIモデルに簡単に切り替えることで、常に最新技術を活用できます。また、他の勤怠管理システムにも同様のFAQシステムを展開することで、より幅広いサポート体制を構築できます。さらに将来的には、AIが直接システムの設定を提案・実行できるような、より高度な自動化機能への拡張も考えられます。勤怠管理以外のHR関連システム(給与計算、人事評価など)にも同様の仕組みを応用し、包括的なサポート体制を構築できます。[CLIENT]IT Forward株式会社:https://itforward.jp2019年設立。「ビジネスをシンプルにする」というビジョンのもと、法人向け業務システム(SaaS)の選定・比較サイト「ヨウケン」https://yokens.jp/の運営、SaaSの選定・導入コンサルティング、運用支援などを行っている。