広島県府中市は、伝統あるものづくりのまちとしての魅力を発信する一方で、デジタル技術を活用した先進的な自治体運営に注力しています。多くの自治体で課題となっている「2040年問題」を見据えた業務効率化と職員の意識改革にも積極的に取り組む中で、2025年に開催された広島県主催のオープンイノベーションプログラム「The Meet 広島オープンアクセラレーター 2025」にて、同市が庁内業務の改善・効率化のツールとして選定したのが、ジンベイのGenOCRでした。今回は、GenOCRの選定・導入に携わられた、府中市役所 総務部 DX推進課 プロセス改革担当監・伊藤健志氏にインタビューを実施。ツール選定から導入に至るまでの経緯や、その後の業務の変化、自治体ならではの課題や取り組みなどについてお聞きしてみました。1.「持続可能な自治体運営」を実現する手段として- まずは府中市がDX推進に取り組んでいらっしゃる背景と、GenOCRを知った経緯について教えてください。伊藤:今の多くの自治体は人口減少や少子高齢化という大きな波の中にあり、いかに行政サービスを維持し続けるか、という課題の解決が求められています。私たち府中市でも、DX推進課が中心となり、「持続可能な自治体運営」を目指すべく、さまざまな業務のデジタル化を進めてきました。もちろん、これは単なる「事務作業の効率化」がゴールではありません。行政サービスの質を下げないということも極めて重要ですし、自分たちの組織の中に「DXの文化」を根付かせていくことも必要だと考えています。とはいえ、市役所業務の特性上、どうしてもペーパーレス化できないところが多いのも事実です。高齢者の方々をはじめ、「誰も取り残さない」という点でも、紙の申請をゼロにすることは難しい。そこで、私たちとしては「紙を無くす」のではなく、「紙もデジタルも上手く両立させながら、どうやって業務として一体化・効率化させるか?」を考えてきました。その一環として参加したのが、広島県が主催するオープンイノベーションプログラム「The Meet 広島オープンアクセラレーター」でした。そこで府中市のテーマとして、先ほどもお話しした「持続可能な自治体運営」を掲げ、「もっと業務を効率化したい」「職員がより付加価値の高い業務に集中できるようにしたい」という、現場の切実な課題を参加企業の皆様へ提示させていただきました。そこで解決策のご提案を頂いた企業が約20社ありまして、その中の1社がジンベイでした。2.精度の高さ・使いやすさから感じた「DXの文化」への手応え- 最終的にGenOCRをお選びいただいた決め手は何でしたか?伊藤:実際に職員と一緒にいくつかのOCRツールを触りながら比較していった中で、GenOCRの「読み取り精度」と「使いやすさ」が圧倒的だと感じたのが理由の一つですね。まずテストケースとして、「住民の方々が手書きされた申請書の読み取り」で検証してみました。これは市役所で最も頻度の高い業務であり、OCRツールを検討する上で一番の懸念点でもあったんです。申請書に書かれる文字には、非常に達筆な字もあれば、走り書きや独特なクセのある字が書かれているケースも相当数あります。正直なところ、最初は「どこまで正確に読めるんだろう?」と半信半疑でした。ですがそうした特徴的な文字も、GenOCRはかなりの精度で読み取ることができたんです。これには本当に驚きましたね。これなら、これまで職員が苦労して手入力していた時間を大幅に削減できる、と大きな可能性を感じました。また、申請書にある「はい・いいえ」のどちらかに丸を付ける項目の読み取り精度の高さにも衝撃を受けました。他のOCRツールだと、丸の位置が少しずれたり枠からはみ出したりするだけで、途端に精度が落ちてしまうことがあったんです。ところが、GenOCRはそうしたズレがあっても問題なく、正しく判別してくれました。加えて、GenOCRの読み取り指示の自由度の高さも大きな決め手になりました。OCRツールの設定といえば、項目の範囲を指定したり、時にはコードを書くような複雑な設定が必要だったりするものが多いんですが、GenOCRは画面の左側に「ここをこう読み取って」と普段使っている日本語でプロンプトを入力し、右側に対象のファイルを入れるとシステムが意図を理解して出力結果を出してくれる。これには実際に触ってみた職員からも「すごいね!」と驚きの声が上がりました。テストを通じてGenOCRに感じたのは、ツールを使う際の「まずはここから」という手順の一歩目がすごく明確でわかりやすい、ということですね。そのおかげで、職員たちが気づいたらいつの間にか自分たちで活用法をどんどんと広げてくれるのでは、という期待が持てました。この「GenOCRならITに詳しくない職員でも気軽に使え、自然と組織に定着するはず」という手応えが、まさに私たちが目指す「DXの文化」を形作っていくことにつながると確信でき、導入の決定打になりました。3.順調な導入の一方で見えてきた行政ならではの課題- DX推進課としては「いかに現場で有効活用してもらうか?」がとても重要なミッションなのではと思いますが、展開にあたって重視されたことは何でしょうか?伊藤:私たちDX推進課は、個別の現場業務すべてに精通しているわけではありませんので、「このケースなら活用できるかも」というイメージはあっても、最終的な決定はやはり日々その業務にあたっている現場の職員自身が行うべきだと考えています。したがって、まずは組織全体でGenOCRへの理解を深めるために、職員向けにオンライン説明会を実施しました。ジンベイの担当者の方に講師として登壇いただき、自治体に限らず「このツールで何ができるのか」「この機能はこんな業務で活用されている」など、事例を交えながら具体的に解説していただけたのは非常に助かりました。職員たちの理解が進んだおかげで、「日常的に高頻度かつ手間のかかる作業を中心に色々と試したい!」という、活用の方向性を示しながら動機付けまでできたのは良いスタートだったと思います。- 利活用のイメージを解像度高く持ってもらうことは、どの組織でも重要なポイントになりそうですね。一方で、行政組織ならではの悩みや課題などもあるのではとお察ししますがいかがでしょうか?伊藤:行政特有の壁として大きいのは、やはり「個人情報の取り扱い」ですね。住民の皆様の大切な情報を庁外のサーバーにアップロードすることには、セキュリティの観点から非常に慎重な判断が求められます。「業務フローとしての理想形」と「守るべきルール」のバランスをどう取るか。そこは現在進行形の課題となっているところですが、まずは制約の少ない着手しやすい領域から着実に活用実績を作っていこうと考えました。特に今回の取り組みである「The Meet 広島オープンアクセラレーター」は、採択企業であるジンベイと一緒に、「実証を通じて行政文書活用のモデルケースを構築する」という側面もありますので、「やりたいこと・できること」を明確にしながら着実に変化を起こしていくことを重視しました。4.使ってみることでわかってきた「得意なこと・不得意なこと」- 実際に使ってみた結果わかったことや、今現在試してみている活用法などがあれば教えてください。伊藤:帳票以外にも、建築や土木系の部署で扱う「図面」の読み取りにも使用してみました。例えばマンホールの位置が記されたようなかなり細かい図面でも、必要な情報をしっかり抽出できていますね。ただ、この業務は発生頻度がそれほど高くはないため、「どこまで大きな効率化に繋げられるか」という点で、今後さらに検討しながら活用していこうと思っています。また、書類関連では手書きの申請書以外にも、既存システムが出力した数字の帳票の読み取りにも活用しています。これは職員の入力ミスが許されない神経を使う作業でも、ミスの防止に役立てられるので、GenOCRの精度の高さには精神的にも非常に助かります。ただ実はこの業務に関しては、使っていく中で見えてきた課題もありました。 当初は、「読み取った結果からそのまま自動で計算・判定までGenOCRで完結できないか」と考えていたのですが、複雑なケースだとGenOCR単体では限界があるとも感じました。ですので、現在は「まずはGenOCRで正確に読み取る」ことに主眼を置き、その後の複雑な処理は別のツールへデータを流し込んで処理させることで自動化を実現しようと考えています。実際の業務での検証を通じて「GenOCRが得意なこと」と「他のツールに任せるべきこと」の境界線が明確になったのは、DX推進課としては非常に大きな収穫だと感じています。- 現場の職員の皆様からの評判はいかがでしょうか?伊藤:GenOCR導入前のオンライン説明会後のアンケートでも「難しそうで使いこなせるか不安」といった声はほとんどなくて、「こういう業務で使ってみたい!」という好意的な意見がすごく多かったです。それは実際に業務に展開した後も変わっていないので、間違いなくGenOCRの「シンプルさ」と「直感的な操作性」が現場に受け入れられている証だと思います。たとえ多機能で高精度なツールでも、使い方が難しければ全く意味がありませんからね。GenOCRは作りが非常にシンプルなので、システムに詳しくない職員でも「ここを押せばこうなるんだな」と直感的に理解できます。この「最初の一歩で躓かない」ことは本当に重要です。一歩目を越えられれば、「次はこういう使い方ができるかも」と、二歩目、三歩目のアイデアが自然と出てくるようになります。実際に使う職員が主体的に関わっていけるツールだからこそ、私たちDX推進課としても、現場と対話を深め、このツールで何を目指すのか?という目的とゴールを共有し、そこへ向けたロードマップをスムーズに描くことができます。GenOCRは、現場だけではなく私たち導入側の職員たちにも寄り添ってくれるツールだと実感しています。5.行政の業務効率化・ナレッジ活用を支える基盤として- 今後さらにGenOCRを使っていきたい業務領域はありますか。また、GenOCRに期待することなど、未来に向けた展望をぜひお聞かせください。やはり先ほどお話しした「個人情報」の壁をどう乗り越えるかですね。「GenOCRを使えば楽になる!」という効果を知ってしまったからこそ、「この業務には使えないんだ」と残念に思ってしまう場面も実はちらほら出てきていて、それが個人情報に関わる業務なんですよね。この点については現在ジンベイとも協議を進めているところですが、庁内の閉域環境、つまり情報が外に出ない環境下で処理が完結できるようになりさえすれば、活用の幅を一気に広げることができます。他にも、国が進めている「ガバメントクラウド」上でシステムを動かせるようになれば、個人情報保護の問題もクリアしやすくなります。一筋縄ではいかないこともありますが、より多くの業務に適用できる土壌を整えていきたいですね。それともう一つは、「読み取り」の先にある「ナレッジ化」へのチャレンジですね。今、市役所には膨大な「紙の情報」が保管されているだけで、十分に活用されていないという現実があります。これらをGenOCRでデータ化・構造化して、迅速な行政運営に活用できるよう「ナレッジ」にしたいんです。例えば、過去に類似ケースの申請があった場合に、その情報をパッと検索して引き出せるようになれば、「前例ではこう対応した・だから今回はこうする」という判断がより早く行えます。これは業務の効率化だけでなく、行政としての正確性の向上にも直結します。過去の情報をいつでも活用できる状態にすることが、今後私たちが目指すべき姿です。そこまで広げていくことができれば、ジンベイのGenOCRの価値は今よりもさらに高まっていくはずですし、その成果をもってより多くの自治体の課題を解決できるようになって欲しいと期待しています。6.「DXの文化」をつくるために必要な心構えー 今まさにOCRツールの導入を考えている企業・自治体の担当者の方に、実際の導入や運用経験を踏まえたアドバイスをお願いします。大切なのは、「最初から100点を目指さないこと」だと思います。ハードルを上げすぎると、少しでもできないことがあった時に「これは使えない」と挫折してしまいます。まずは60点、70点でもいい。不完全な部分があっても「あ、ここは学習になったね」と捉えるプロトタイプ精神が、システム導入や業務改革には何よりも大切だと思います。例えば私たちも、最初は「GenOCRで読み取り後の計算処理まで全自動で完結させる」と考えてはいましたが、実際には難しい部分もありました。でも、そこで全部をやめてしまうのではなく、まずはできるところをいかに有効活用するかを考える。少しでもいいから変化を起こし、確実に前へと進めていくことが大切です。ただし、変化そのもの・導入そのものを目的にしないことが肝心です。「何か変えなきゃ」「ITを使わなきゃ」ではなく、何のためにどのような状態を目指すのか?という目的意識を導入側は見失ってはいけませんし、現場とも目的意識を共有しながら進めることが大切です。今回のGenOCR導入についても、もしDX推進課からトップダウンで「このシステムを使え」と言ってしまったら、ここまでスムーズな展開はできなかったと思います。そこはGenOCRの便利さに甘えず、現場を巻き込んで丁寧に進めることをお勧めします。そこさえ間違わなければ、先ほどお話ししたように「現場側にも導入側にも寄り添ってくれるツール」がGenOCRの大きな強みですので、「DXの文化」を根付かせるのに一役買う存在になってくれると思います。伊藤様、ありがとうございました。引き続き府中市はもちろん、より多くの自治体で業務効率化・ナレッジ化にご活用いただけるよう努めてまいります。(インタビュー:2026年5月11日)