CTO支援に特化したテクノロジー集団、株式会社DELTA様では、クライアントの開発組織向けにさまざまな技術支援ソリューションを提供しています。エンジニアの採用状況が厳しいと言われる今、IT企業の採用現場には大きな課題があるといいます。同社CTOの丹哲郎氏に、今回ジンベイに依頼したシステムの狙いなどを伺いました。■IT企業が欲しい即戦力人材は従来の方法では採用できない[cap]株式会社DELTA/丹 哲郎氏(CEO、CTO)― IT企業においてエンジニア採用が重要なのは言うまでもありませんが、採用の現場ではどのような課題があるのでしょうか?これまで、IT企業はジュニア層・ミドル層を一括採用して育ててきました。しかし昨今、コーディングはAIにやらせればいいという風潮になりつつあり、ハイレイヤーのエンジニアやマネジメントができるエンジニア、要はAIを使う側としてちゃんと品質担保できる人材の採用ニーズが高まっています。いわゆる転職媒体やエージェントなどは、エンジニア以外の採用では有効ですが、エンジニアは今本当に不足しているので、それだけではハイレイヤーの優秀な人材を採用するのは無理です。もう5、6年ほど前からそういう状態です。媒体やエージェントでは、転職希望者として登録された瞬間にもう次が決まってしまいますから、事前に種まきをしておかないと、優秀なメンバーは採用できません。媒体やエージェントに頼らない採用が重要になっているわけです。エージェントに申し込む以前の段階、現職に従事している段階で、何かしら接点を作っておき、半年や1年後に状況が変わって転職したいと思ったタイミングで声かける、というようなアプローチが必要です。― スタートアップも含めてIT企業側のニーズが即戦力を重視するようになってきたと。一方で、現場がどういう人材を求めているかという理解などが追いついていないという企業側の課題もあるそうですが。 当社ではバックグラウンドがエンジニアである者が自ら採用に携わっていますが、クライアントさんに聞くと、人事担当者やマネージャーが採用を担当しているところもあるので、そういう課題もあるだろうなとは思っています。■スカウト候補者リスト作成をAIで自動化する― まだ現職に従事しているようなエンジニアはどのようにして見つければいいのでしょうか?「転職が顕在化していない層」に早くからアプローチするという採用手法は、ベンチャーやスタートアップでは半ば常識のようなものになっています。僕らも去年から人力でやっていました。例えばカンファレンスの出席者とか登壇者をリストアップしてDMを送るわけです。しかし自分たちでやるのは限界だったため、リテーナーエージェントを使うことにしました。これはかなり大きな費用を前払いしてヘッドハンティングしてもらうわけですが、彼らが報告してきた転職未顕在層のリストを見て、これはどうやって作ったのですかと聞いたら、「ググりました」という答えだったんです。僕らと同じようにカンファレンスに出席した人や、技術書に反応した人を調べたりしたわけです。そこで、人間がその作業をするのではなく、それをAIに落とし込んでほしいということをジンベイさんに依頼することにしました。[cap]ジンベイが制作したシステム。ダイレクトスカウトに特化したAIエージェントを構築し、Web上に公開されている情報から、募集要項に沿った候補者のリストアップを実現。また候補者のブログや技術記事も自動で調査して、スカウト反応率が上がるスカウト文も自動で生成できるようにした。[ジンベイ プロジェクト担当者から]疎結合でシンプルな設計を目指し、DELTA様自身が容易にカスタマイズや変更を加えられるよう、各要素を独立させ、構成をできる限り簡潔にしました。一般的なスクレイピングではなく、LinkedInとXが提供するAPIを利用することで、合法的にデータを取得しています。今後のアップデートとして、最新のLLM(大規模言語モデル)に簡単に切り替えられるようにしたり、エンジニア以外の職種採用にも応用できるようにしたり、DELTA様側で情報源を拡張できるようにしていく予定です。― ジンベイに実現してもらいたかったことを具体的に教えてください。先ほど話した、人間がググるのに相当することを、AIが勝手にやってもらいます。例えばRubyのバックエンドエンジニアが欲しかったら、それに合致するような人をSNSなどのデータソースから検索する。次はその人をピン止めし、例えば3年前に入社ブログを書いていたとか、どこそこのカンファレンスにCFPを出していたとか、こういう内容で登壇したいと表明していた、といった周辺情報で肉付けして、公開情報から仮想の履歴書を作ります。それを自社のジョブディスクリプションを照合し、ABCのマッチ度を判定して、リストを出力します。― その判定もAIが行うわけですね。そうです。 ■当システムの導入と応用について― ジンベイの作業に対する満足度はいかがでしょうか?実際に対象者にスカウト文を送ったりという検証まではまだできていませんが、実際に出力されるリストを共有していただき、それに要望を返して、最終的にかなり要望通りのものが出てくるようになっているので、現時点での評価としては、とても満足しています。今後も含めて非常に期待しています。― 導入状況を教えてください。自社内での利用はまだ始めたばかりで、本格的な導入はまだこれからですが、同時に、エンジニア採用に課題があるIT企業に提供していきます。SaaS的にプロダクトとしてアレンジしたサービス「ハックツAI」(リンク:https://hack2.ai/)をリリースしました。― 今後の応用の方向性としては?同じものは、エンジニア以外の採用では僕は難しいと思っているんです。なぜなら、営業職、企画職の人たちは、インターネットに個人情報をアップする文化がありませんから。ただ、Linkedinや周辺記事などその人の公開情報を繋げて一つにまとめるという今風のOSINTは、オープンソースインテリジェンスの応用例としては、次は営業に使えるんじゃないかと思っているんです。例えばどこの出身で技術畑の人で、最近上場企業の取締役に就任したという人事情報がある、ということから、同じバックグラウンドの営業からこういう風に攻めればアポ取れるんじゃないか、というように、決済者とつながるアプローチ先リストを作ることができるんじゃないかと思っているんです。そういったことも今後一緒に考えていきたいですね。■生成AIに対する合意形成、採用の未来― 今後、採用分野でも生成AIが積極的に使われていくようになるでしょうか? この分野はまだ社会的に合意結成ができていないと思います。エンジニアという人たちは「搾取される」ことに敏感ですから、自分たちの公開情報がビジネスになることには抵抗があるかもしれません。僕らからすると、公開情報をつなぎ合わせているだけだから倫理的な問題はないと思うのですが、エンジニア側から見ると、社会的に合意形成がまだできていない。スカウト文の生成ぐらいは誰でも思いつくし、すでに利用している人もいるだろうし、それを売りにしたサービスも出てくるでしょう。素人が書いたスカウト文よりも良いものができて、AIがちゃんとマッチングしてくれるのならいいじゃないかと。採用分野におけるAIの活用というのは、そんな感じで一歩進んで二歩下がるというようなことを繰り返していくうちに合意形成ができていくのではないかと思います。今はグレーなことも多いので、すぐには難しいと思います。― それは領域を問わず、生成AIそのものの問題でもありますね。 おっしゃる通りです。― 最後に、今後の貴社の採用戦略について教えてください。自社の採用に関しては、今、二つ走らせています。ひとつは、先ほどの話とは逆ですが、ミドル・ジュニア層を教育する前提で採ろうと思っています。これに関しては今回のシステムは正直使えません。そういった層は公開しているアウトプットが乏しく、特筆するような経歴もありませんから。だからそういう人たちを採用するのには媒体やエージェントを使います。もう一つは、僕らの主業である技術支援の領域です。この領域ではマチュリティが高い、ベテランの人たちが必要です。そういう人は1本釣りで、10人も20人も要らない。本当にピカピカな人を2、3人雇いたいというイメージです。ですから、このシステムを自分たちで使い倒していきたいと思っています。― ジュニアミドル層を採るのは、ある程度ロングスパンで育てていくことも必要だと考えたからですか?僕らは今までマチュリティの高い人でなければできないことばかりやってきましたが、今、生成AIを活用したエージェントやシステムを作ってほしいという市場ができ、僕らもそうした現場で若い人を育てていこうと考えています。そういう意味では、今回のプロジェクトは、ジンベイさんに作ってもらったことで、僕らもすごく学ぶことがありました。これを題材に、僕らも若い人に学ばせていきたいと思っています。 ― ありがとうございました。 (インタビュー:2025年5月21日)[CLIENT]株式会社DELTA:https://teamdelta.jp/2022年設立。CTO支援に特化したテクノロジー集団。技術負債解消、テックリードな共同事業開発、プロトタイピング開発支援、エンジニア採用支援など開発組織向けに、診断・ソリューション提案・施策実行を提供。技術相談から採用まであらゆる領域の支援を行っている。