―山下さんの自己紹介をお願いします。山下リーナーの山下と申します。よろしくお願いします。私がリーナーで担当しているのは、大きく2つあります。1つはエンタープライズ領域の大手企業への営業開拓、もう1つはそれに向けた新規事業の開発です。新規事業ではAIを組み合わせたサービスを検討しており、ジンベイさんとも一緒に取り組んでいます。リーナーには約5年前、社員が5人ほどのタイミングで入社しました。最初の1年半はインサイドセールスの立ち上げを担当し、その後はフィールドセールスとして大手企業を担当しました。直近の半年ほどは、新規事業の立ち上げにも関わっています。前職は日産で、経営企画のポジションにいました。その後、社員30名ほどのベンチャー企業でインサイドセールスやマーケティングなどを幅広く経験し、現在に至ります。―リーナーさん自体の事業について教えてください。山下リーナーは、「調達のスタンダードを刷新し続ける」というミッションを掲げ、企業間取引、いわゆるBtoBの調達・購買領域を科学することに取り組んでいる会社です。調達というのは、企業が必要なモノやサービスを外部から購入する業務全般を指しますが、私たちが注目しているのは、toC(一般消費者向け)との決定的な違いです。例えば、個人で何かを買う場合は、Amazonを見れば価格がすぐ分かりますし、車を買うならディーラーに行けばおおよその値段が分かります。しかしBtoBでは、約99%の商品・サービスの価格が事前に見えません。見積もりを取らないと価格が分からず、適正価格や妥当な価格を把握するのが非常に難しいのです。リーナーでは、こうした非効率をテクノロジーの力で可視化・最適化し、企業が最適な品質のモノを、最適なコストで調達できるように支援しています。まさに、調達のあり方そのものを刷新しようとしている事業です。―そこでSaaSの製品を展開されていますが、そもそも調達領域のSaaSは珍しいのでしょうか?山下はい、日本では調達領域に特化したSaaSは非常に少なく、ほとんど存在しないと言っていいと思います。一方で、アメリカでは「プロキュアメント(procurement)」と呼ばれる調達分野のSaaS、いわゆる「プロキュアテック(ProcureTech)」がこの20年で大きく発展しています。代表的な企業としては「Coupa(クーパ)」があり、上場時には時価総額が1〜2兆円規模にまで成長しました(現在はM&Aで非上場)。このように、海外では市場が確立されている領域です。しかし日本では、調達領域にSaaSを導入しようとすると、選択肢として出てくるのはSAPのような巨大な海外製システムか、オンプレミスのスクラッチ開発(自社開発)によるものが主流です。たとえば東芝のような大企業が、自社向けにパッケージを導入しカスタマイズして使うようなケースが一般的で、中堅企業や新興企業が気軽に導入できるSaaSはほとんど存在していないのが現状です。―SaaSとして売れているのは、前職でのERPのようなパッケージシステムが多い印象ですが、調達領域をパッケージ化・SaaS化するのは難しいという印象があります。この5年で参入するのはやはり困難でしたか?山下最初は非常に難しかったです。まず、そもそも予算がつかないんですよね。調達・購買の領域は、ERPと隣接していることが多いため、「ERPである程度対応できるんじゃないか」という認識が根強くあります。そのため、「わざわざ購買に特化したSaaSに対して、別で予算を組む必要があるのか?」という疑問を持たれるケースが多く、導入のハードルが高かったのが実情です。最初の数年は、そうした認識との戦いが大きかったと思います。―そういった観点で言うと、そもそもコンペ自体が少なく、市場そのものを作っていくようなフェーズかと思いますが、いかがでしょうか?山下おっしゃる通りで、最近は少しずつ競合も出てきましたが、立ち上げ当初はほとんどコンペが存在しませんでした。コンペがないというのは一見ポジティブに聞こえるかもしれませんが、実際には「市場がない」ということ。つまり、予算がついていない=お金が取れないということなんです。この領域では、まず市場そのものを作る必要がある。言い換えれば、顧客側に新たな予算項目を作ってもらう必要があるんです。すでに予算がある領域から受注するのと、自分たちでその予算自体を新たに生み出すのとでは、セールスの難易度がまったく違います。そこが大きなチャレンジでした。―そもそも、この領域に対して「投資すべきだ」というところから提案していく必要がありますよね。山下その通りです。まずは経営陣に「この領域に投資する価値がある」と納得してもらわないと、導入には至りません。―すごくやりがいがありそうですね。山下営業としては、非常におもしろい領域だと思います。―この先、どのような価値を提供し、どんな世界を実現したいとお考えですか?山下調達の最適化が何に繋がるのかというと、まずは調達部門の業務効率化や生産性向上といったファーストステップがあります。ただ、それ以上に重要なのは、企業全体の経営に与えるインパクトです。私たちの主なターゲットは製造業の企業なのですが、製造業では売上の約7割が調達コストに充てられています。つまり、調達コストが1〜2%改善するだけで、利益率に大きな差が生まれます。だからこそ、この領域を「科学」して最適化したいと思っています。調達を最適化することで、お客様の利益率を上げる。さらに、それが一社にとどまらず、サプライチェーン全体の利益率向上にもつながっていく。最終的には、日本全体の「儲かる構造」をつくりたいと考えています。たとえば自動車業界で言えば、トップメーカーが原価を削減し、より良い製品をより安く提供できるようになれば、グローバル市場でも優位に立てるようになります。500万円の車を、同等の品質で450万円で出せるとしたら、販売台数も増え、日本経済の成長にもつながるはずです。そうやって最上流から下流のサプライヤーまで、調達を通じて利益の総和を最大化する。そんな世界を目指していきたいと考えています。―ジンベイとしても、近い世界観を目指している部分があるのでは?上田そうですね、ジンベイも同じ方向を目指していると思っています。私自身、以前はワークスアプリケーションズで「日本の情報投資効率を上げる」というミッションのもとに仕事をしていました。そうした背景もあって、山下さんの考え方には非常に共感しています。業務の効率化や業務そのものの変革をどう進めていくか、という視点は私たちジンベイとしても重要なテーマです。そこに生成AIや新しい技術を組み合わせて、いかに変革を加速させるかという点で、強いシナジーを感じました。特に「科学している」というアプローチに共感しましたね。山下ありがとうございます。極端に言えば、BtoCのように、BtoBでも「買い物の相場感」が見える状態になれば、必要以上に高く買ってしまうことは減るはずだと思っています。たとえば、ある製品について見積もりが500円で出てきたときに、適正価格が450円だと分かれば、「あと50円下げられる余地があるな」と気づけます。そういう情報が見えるだけでも、企業にとっては大きな価値になると思うんです。ただ、現状のBtoBは情報の非対称性が非常に大きく、そこに付け込んで利益を得ている構造もあります。だからこそ、もっと健全で透明性のある競争環境に変えていきたいと思っています。そんな世界を実現したいですね。―現在のSaaS事業の状況や、将来的な展望について教えてください。山下そうですね。直近の状況でいうと、よく言われる「T2D3」というスタートアップの成長指標がありますが、日本ではそれが妙に絶対視されていて、「達成していればすごい」みたいな風潮がありますよね。誰が決めたのかはよく分かりませんが(笑)。一応、私たちもそのT2D3のラインには乗っていて、若干それを上回るペースで成長しています。ただ、もちろんT2D3を達成することがゴールではなく、それを超える非連続な成長を実現していきたいと考えています。私たちが成長するということは、それだけ企業の「買い物」が科学され、より多くの企業が最適な調達を実現できているということです。社会全体にもポジティブなインパクトが広がっていくはずなので、そこにはもっとレバレッジをかけて、加速させていきたいと思っています。―取り組みの領域について、例えば新規事業や今後の成長に向けた部分を教えてください。山下私は昨年からエンタープライズのお客様を担当する部門を見ているのですが、彼らと話していると、要求水準やニーズが非常に高度になってきていると感じています。特に最近では、生成AIを活用しようという動きが当たり前になってきており、生成AIを全く使っていない企業はほとんどないと思います。ただ、使い方や活用度合いには差がありますが。そのため、エンタープライズのニーズに応えられるソリューションをしっかりと作らなければ、これまで通りのSaaSだけではなかなか売れない時代が来ていると感じています。そうした背景のもと、私は今、エンタープライズ向けにそういった高度なニーズに対応する新しいソリューションの立ち上げに取り組んでいます。そこに向けて開発を進めているところです。―おそらくそうした背景からジンベイとの連携が始まっていると思いますが、その前段階として、大手企業や製造業の方々が生成AIをどのように捉えているか、肌感覚で感じられたことがあれば教えてください。山下この点については、話す相手のレイヤーによっても違うと思います。私の場合、役員や取締役の方と話すことが多いのですが、その方々から共通して聞くのは、製造業は基本的に人手不足が深刻で、若手の人材があまり入ってこない業界だということです。実際、新卒の人気も低く、ベテラン世代が退職し、就職氷河期世代が抜けてしまったため、50代後半の世代と20〜30代しかほとんどいないような組織も珍しくありません。つまり、中堅層が非常に薄い状況です。その結果、現場の業務を担う人員がどんどん不足していき、新しい人材も入りにくく、加えて近年は転職しやすい環境になったこともあって、従来の業務効率化や改善の延長線上では企業が回らなくなっているという危機感が非常に強く感じられます。ちょうどそうした課題感と生成AIの急速な進展が重なっており、「人の業務を代替できる技術が出てきた」という期待感が経営陣の間で非常に高まっています。そうした背景から、生成AIに大きな期待をかけているという印象を持っています。―皆さんはそうした人員構造や業界の状況を踏まえ、生成AIの活用にかなり前向きなんですね。山下そうですね。具体的に何をどう使うかはまだ明確ではないのですが、とにかく使わないともう立ち行かない、というのが経営陣の共通認識です。一方で現場はまだそこまで切迫感が強くなく、温度差を感じることもあります。―上田さんも一貫して大手のお客様と仕事をされることが多かったと思いますが、生成AIを含む最近のAIトレンドについてどのように感じていますか?上田技術トレンドと組み合わせて考えると、過去にもAIブームはありました。たとえば2012年頃のディープラーニングの流行です。当時は画像認識など特定分野での技術活用が進みましたが、主に業務効率化のための人の補助が中心でした。しかし、今の生成AIやAIエージェントはまったく状況が変わっています。先ほど山下さんも言われたように、単に補助ではなく、人の業務そのものを代替し始めている点が大きな違いです。いくつかポイントがあります。まず「知識」面では、人間を超える知識量を持つAIが現れています。大手テック企業もここに注力しており、OpenAIの最新モデルは競技会でも上位に入っています。考える能力も大きく進化しています。次に、AIが「どう行動するか」という部分にも進展があり、特にホワイトカラー業務の代替が進んでいます。つまり、考えるだけでなく、構造化されたシステムの中で実際に行動を起こす段階に入っているのです。これから3〜5年で、こうしたAI技術がさらにオフライン環境にも普及していくと考えられています。紙に書いて思考し、行動を起こすという人間のプロセスが、AIやロボットによって代替されていく流れが進んでいます。こうした技術の発展とともに、AIエージェントのような新しい形のAIへの期待が高まっているのだと思います。山下AIでできることが増えたことが、期待値の高まりに繋がっているのだと思いますね。―ジンベイと取り組んでいることについて教えてください。山下ジンベイさんとはいくつかのプロジェクトでご一緒させていただいていますが、最初は私たち側に生成AIの開発知見がまったくなかったため、その基礎から教えていただくところから始まりました。私自身も何度もミーティングを重ね、丁寧に教えていただきました。その過程で調達向けのAIエージェントを作ることになり、どのような作り方があるのか、実際にお客様に見せるデモを一緒に作成しました。どういった仕組みで作られているのかも含めて教えてもらうことで、お客様のニーズを正確に捉えることができました。また、AIは動くものを見せないとお客様の反応が得られないことが多いので、デモを超速で作っていただけたのは初期段階で非常に助かりました。そのデモを見て、「こういう使い方ができるなら、調達業務にこんなふうに活かせそうだ」というアイデアも生まれました。そういった意味で、非常に良い取り組みになっていると感じています。―ありがとうございます。単なる受託開発にとどまらず、お客様に対して生成AIという手段を使い、どのような価値を提供すべきかという上流の部分から伴走していただいているイメージですね。山下そうですね。私たち自身、お客様の課題を聞いても、AIでどう解決すればよいかの知見がまだ十分ではありませんでした。ですので、そこから丁寧に入り込んでいただき、「こういう課題をこういうプロセスで解決し、順番にこういったプロンプトを使う」といった細かい部分まで教えてもらえたのは非常にありがたかったです。―ノウハウや非定型的な部分、例えばデモ制作などは、リーナー側から理想像や要件を渡して、ジンベイ側で対応する形だと思いますが、そのあたりはどのように進めていますか?上田弊社は生成AIで何ができるかという知見は持っているのですが、特に大手エンタープライズの調達領域で現場が抱える課題の解像度は高くありませんでした。そこで、山下さんやリーナーの皆さんから具体的な情報を細かく教えていただき、それをもとに「これができそう」「あれができそう」といった技術的な可能性を検討し、既存技術と組み合わせてすぐに価値提供できる部分を見極め、今回のデモ作成などに活かしました。山下私たちは調達業務でお客様が何に困っているか、理想の姿はある程度イメージできるのですが、「どう解くか」という部分、特にLLMや生成AIを使った具体的なアプローチは未知で、何ができるかもわかりませんでした。上田確かに、SaaS開発の時は業務フローを固めてシステムに合わせてもらうのが基本でしたが、今回のAIエージェントは必ずしも細かく動かなくても良いし、バラバラのデータを登録するだけでも機能するなど、ずいぶん楽になってきていると感じます。山下そうですね。非構造化データでも処理できるのは、従来のソフトウェアにはない革命的な特徴です。普通はきちんとデータベース設計をしないと動きませんから。上田ただ、それだけだと管理面で課題もあるため、SaaSとしてはきちんとしたデータベース設計も重要ですが、登録から形にする部分については生成AIが大きく変えてきていると強く感じます。―大手企業からの生成AI活用ニーズが高まる中で、ジンベイとの取り組みが始まりましたが、新たにこれまでになかったお客様からのご要望はありましたか?山下お客様に提供できる価値の幅は確実に広がったと感じています。これまでの我々のソリューションは、SaaSとして業務フローをしっかり設計し提供してきましたが、ソフトウェアだけでは解決できない部分もありました。例えば調達業務においては、バイヤーが見積もり価格の妥当性を判断するような作業は、ソフトウェアで再現するのが難しい領域です。しかし、その部分をAIに模倣させて解決することができるようになりました。これまではお客様から「本当はこういうことをやりたいけど、ソフトウェアでは無理だよね」と諦められていた課題に、新たな価値を提供できています。実際に既存のお客様からも多くの引き合いがあり、「うちもやりたい」という声が非常に増えてきました。また、エンタープライズのお客様はすでにシステムを導入していることが多く、最初は「AIで何ができるのか」という漠然としたニーズが多かったのですが、以前はそうした曖昧な要望には対応できず、戸惑うこともありました。しかし今は「AIで何をしたいか」と具体的な相談をいただけるようになり、受け入れられる体制が整いました。この変化は、新規開拓の突破口になるだけでなく、既存のお客様に対してもより深い価値提供が可能になっていると感じています。―ジンベイとしても非常に力を入れて取り組んでいただいていると思いますが、上田さんとして、ジンベイならではの提供価値をどのように捉えていますか?上田難しい質問ですね(笑)でもよく言っているのは、やはり業務にどう組み合わせていくかが大きなポイントだということです。技術的には日々進化していますし、研究者やエンジニア出身の方が多いので、技術自体は特別なものが多いのですが、それだけでは業務がうまく回らなかったり、実際の業務で活用できなかったりするケースが多いのがエンタープライズ企業の現実です。特にエンタープライズ企業はミスが許されにくいので、どのようにAIのカバー体制を作るか、あるいは精度をどこまで上げるのかという点を考え、現場のオペレーションにどう取り込んでいくかが強く求められています。弊社のメンバーは、私も含めERP開発出身者や、その後にAIにキャリアを積んできた人間が多いため、そういった視点が基本にあります。つまり、技術ありきではなく、どうお客様の業務を変え、改善していくかという観点を持っているのが弊社の強みです。最悪、AIを使わなくてもよい場合はそうすればよいと考えていますし、技術に縛られず柔軟に業務改善に向き合っているところが、ジンベイならではだと思います。―今後の生成AI活用の流れは市場も大きくなると思いますが、弊社との取り組みの中で、より深めていくことで提供価値がさらに大きくなる部分があれば教えてください。山下今日は話した内容も含めてですが、やはり一緒に大きなプロジェクトをやりたいという思いがあります。我々のソフトウェアとAIをどう組み合わせるかという観点はもちろんですが、AIエージェントをベースに、どういった付加価値を提供できるかを一緒に考えていきたいですね。具体的には、データベース設計やUI構築など、これまで我々だけでは出せなかった新しい提供価値を作っていくことです。実際に、そうした案件の種はたくさんありますので、ぜひ一緒に取り組んでいきたいと考えています。―ありがとうございます。逆にジンベイとしては、今後の展望や取り組みの将来像はどのようにお考えでしょうか?上田弊社の製品単体だけでは、お客さまの課題を解決できる範囲は非常に限られています。そのため、調達領域などでリーナーさんと一緒に連携しながら、双方でカバーできる範囲を拡げていき、お客さまに提供できる価値を増やしていきたいと思っています。これから調達領域はますます拡大していくと思いますが、エンタープライズの業務全てを一つのパッケージで網羅するのは非常に難しい課題です。だからこそ、段階的に取り組みながら、まずは一緒に入り込んで価値を出していければと考えています。山下生成AIは調達領域と非常に親和性が高いと思います。調達では非構造データが大量に扱われていて、見積書や要件書、コミュニケーションなどの情報が多く、正規化されたデータベースにしづらい状況です。そのため、従来は属人化しやすい領域でしたが、AIを介することで、ベテランの知見を模倣するAIをつくり、新人のレビュー支援などが可能になります。特に、ベテラン人材の減少が深刻な調達業務では、AIにナレッジを「インストール」しておかないと、知見が失われてしまい、会社の調達機能が回らなくなるリスクがあります。だからこそ、AIエージェントを多数用意し、リソースが減っても高度な調達業務が回せる体制をつくりたいと思っています。より深くお客さまに入り込み、こうした取り組みを推進していきたいですね。上田まさにそういうノウハウや知識は、企業ごとのクローズドな知識としてAIに持たせて解決できればよいと思います。山下本当にその通りで、お客さまごとに保有している非構造でオープン化されていないデータの取り扱いが大きな課題です。特に調達領域は機密度も高く、なかなかデータを出せないケースも多いので、その辺りの課題解決が鍵になると思います。―ジンベイに限らず、先ほどもノウハウがどんどん消えてしまうのを生成AIで補っていくという話がありました。生成AIを大手企業や製造業のお客様の調達領域に活かしていくことで、どんな未来が見えてきますか?山下そうですね、まず大きく2つの価値があると思っています。ひとつは、バイヤーさんや製造業の現場での人手不足の問題です。でも仕事は増えているという状況で、例えば自動車業界で言うと、これまで買っていた部品は鉄でできたドアやハンドル、エンジンの部品が中心でしたが、最近は自動車に乗っているソフトウェアの割合がすごく増えていて、いわゆるSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)ですね。そのソフトウェア比率が増えると、ソフトウェア開発やソフトウェア自体を調達しなければいけなくなり、買うものがガラッと変わっています。コスト構造も大きく変わり、原価の構成も変化しているんです。そうなると、新しいものを買うための知見も新たに必要になってくる。だから、今までの仕事を半分の工数で終わらせて、残り半分で新しい仕事に取り組まなきゃいけないんですが、人は減っているというやばい状況なんですね。そこで、短期的にはAIエージェントの活用が重要で、人の代替として、まずはAIの労働力をちゃんと提供してあげて、人数が減っても既存の業務が回るようにすることが第一歩になると思います。そして次のステップは、ベテランの知見をAIにインストールして、ただの労働力ではなく、精度の高い判断力を持った労働力として動かせるようになること。これができると、人間とAIがパートナーとして協力し合える世界になるんじゃないかと思います。日本はロボットと一緒に働く文化が根付いていますよね。アニメやSFの影響もあって、AIと敵対するんじゃなくて、一緒に働けるものとして受け入れる文化があると思うんです。だからこそ、AIと共に動く未来は現実的だと僕は信じています。そうなると、面倒で単純な作業はAIに任せて、人間は人間にしかできないことに専念できる。例えばサプライヤーと良好な関係を築いたり、社内外の部門を巻き込んだプロジェクトを企画したり、製品全体の相談をするような創造的な仕事ですね。これはAIにはできないことなので、ここにフォーカスしてほしいんです。これまでは購買業務はルーチンワークや単純作業が多く、あまり魅力的な部署とは見られてこなかったですが、AI活用で創造的かつ戦略的な部門へと変わっていくと思います。そうなると部門としての人気も上がるでしょうし、製造業全体としても、他業界の購買担当者が「製造業の購買でより創造的な仕事をやりたい」と思うようになるかもしれません。僕たちは製造業だけでなく様々な業界の購買業務を変えていきたいのですが、こうした形で購買部門で働く人たちが自信を持って生き生きと働けるようになる。ちゃんと意義のある働き方ができるようになると思っています。働き方のあり方を変えていくというか。もちろん会社の利益も出てくるでしょうけど、やっぱり働く人のモチベーションで成果も変わると思うので、そこまで実現できればいいなと考えています。(インタビュー:2025年8月4日)[CLIENT]株式会社Leaner Technologies:https://leaner.co.jp「調達のスタンダードを刷新し続ける」をミッションに、ソーシングの高度化を実現するソーシングDXクラウド「リーナー見積」、購買プロセスを一元管理する購買プラットフォーム「リーナー購買」を提供しています。企業の調達部における過去のデータや取引先・社内関係者とのコミュニケーションなど、業務プロセスをデジタル化し、蓄積されたデータの活用を促進することで、調達部門の生産性と企業の利益率向上を実現するサービスを提供します。